1.膵内分泌腫瘍とは
膵臓の機能は消化液としての膵液を排泄する外分泌機能と、種々のホルモンを産生する内分泌機能に大別されます。膵外分泌機能?営む領域は膵全体の95%を占めます。内分泌機能を営むのは、膵内に散在するランゲルハンス島であり、膵全体の5%を占めます。このランゲルハンス島から発生する腫瘍はランゲルハンス島腫瘍、あるいはランゲルハンス島細胞腫瘍と呼ばれています。しかし、近年ランゲルハンス島を構成する内分泌細胞はランゲルハンス島だけでなく、膵外分泌機能に関係する膵管上皮や腺房細胞間にも存在していることが判明したため、広い意味で膵内分泌腫瘍と呼ばれることが多くなりました。これらは一般にいう膵外分泌機能を営む領域から発生する膵がんとは区別されます。
膵内分泌腫瘍は、血液中にホルモンを過剰に分泌する機能性腫瘍と、ほとんどホルモンを産生しない無機能性腫瘍とに分けられます。また、ホルモンを過剰に分泌する場合には、そのホルモン独自の症状が出現しますので症候性腫瘍と呼び、症状の出現しない無機能性腫瘍のことを無症候性腫瘍とも呼ぶことがあります。
関連するまれなものとして、多発性内分泌腺腫症という病気があります。これは、家族性に多発する複数の内分泌組織に腫瘍が発生する病気で、他の内分泌組織(下垂体、副甲状腺など)とともに膵臓にも腫瘍を合併することがあります。
頻度
膵内分泌腫瘍は膵腫瘍全体の約2%前後、人口10万人あたり1人以下がかかるまれな病気です。
膵内分泌腫瘍の多くは症候性腫瘍で、血糖を調節するホルモンであるインスリンを過剰に産生するインスリノ−マが約7割を占めます。ガストリンを過剰に産生し、過酸症による難治性消化性潰瘍を生じるガストリノ−マが約2割、その他のホルモンを過剰に産生する腫瘍が残りを占め、さらに頻度は少なくなっています。
また、無症候性腫瘍は膵内分泌腫瘍の15〜20%といわれていますが、最近画像診断の進歩で偶然発見される無症候性腫瘍が増加しています。
2.症状
1)症候性腫瘍
症状は過剰に産生されるホルモンによって異なります。
(1)インスリノーマ
乳幼児から高齢者まで広くみられ、男女比ではやや女性に多いようです。低血糖症状をおこし、食事の摂取で回復します。軽い低血糖発作時にはもうろうとして異常行動を伴うことがあり、精神病と区別が難しいことがあります。小児の場合は痙攣や昏睡が主症状で、長期にわたると精神障害がおこることがあり、早く診断することが重要です。
(2)ガストリノーマ
小児から高齢者にみられ、男性にやや多いようです。ガストリンは胃酸の分泌を亢進し、腹痛や胸やけという過酸症状をおこします。古くからゾリンジャーエリソン症候群といわれ、なかなか治らない消化性潰瘍、食道炎がある場合はこの病気も考慮します。
(3)VIP産生腺腫(血管活性腸ポリペプチド腫瘍)
小児から高齢者にみられ、女性に多いようです。WDHA症候群とも呼ばれています。大量の水様性下痢、血液中のカリウムの減少、低〜無胃酸症を示す症候群です。通常、1日3リットル以上の下痢をおこします。その他にもいくつかの症候性腫瘍が報告されていますが、まれな腫瘍です。
2)無症候性腫瘍
ホルモンによる症状はなく、腫瘍が大きくなり腹部腫瘤を触知したり、腹痛、黄疸などの症状が出現します。30〜50歳の女性に多いといわれています。最近では、腹部超音波検査で自覚症状のない無症候性腫瘍が発見されることがあります。比較的小さい腫瘤が発見された場合は、通常の膵がんとの鑑別が困難な場合もあります。
3.診断
症候性腫瘍ではホルモン特有の症状を詳しく尋ね、この病気の可能性を検討します。さらに原因ホルモンの異常分泌がないかどうか、血液検査を行って確認します。次に腫瘍が膵臓のどこにあるのか、いくつあるのか、どの程度の大きさなのか、拡がりはどの程度かについて詳しく調べるために腹部超音波検査、CT検査、血管造影検査を行います。
症候性腫瘍の場合は、他の内分泌組織に腫瘍を合併する多発性内分泌腺腫症かどうかを調べます。
無症候性腫瘍は、腹部超音波検査、CT検査、血管造影検査、内視鏡を用いる膵管造影を行い、腫瘍の拡がりを調べると同時に他の膵腫瘍との鑑別診断が重要となります。
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国立がんセンターがん対策情報センターより一部転載